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流通業界初心者のための店舗視察勉強について【保存版】

 ~晴れて流通業に関わることになった方。大学ではマーケティングを専攻し、会社でもカリキュラムを組んでいろいろと教えてくれるけど、実際のところどうも良くわからないという若葉マークの方へ捧ぐ~

 「他所のスーパーマーケットってどうやって勉強すれば良いんだ? 」と思っていらっしゃる初心者の方。
食彩賓館が30年かけて(実際はここ7~8年ほどで、本格的な店舗回りは最近4年位だが[E:happy01])たどりついた「初心者向け視察の極意」を伝授します。
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 他店を見に行くことを“ストコン(ストアコンパリゾンの略)”とか“MR(マーケットリサーチを間違って使っている)”とか言ってますが、実際、わかってやっている方は少ない。ほぼ自分なりの思い込みや店舗運営部が作ったチェック表を使って店を評価して「ストアコンパリゾンした」と自己申告しているだけだと思っています。
あとはカテゴリーごとの品揃えだとかプライスライン・プライスゾーンやPFグラフなんか作って、比較対象データは立派だが、対策は競合店並みに品揃えを増やすか、価格をちょびっと安くするとかぐらいで、結論は「頑張ります的対策立案」というのが多い。
それらよりは、ましかなと思えるのが競合店の商品をカテゴリー全品買ってきて、自社のカテゴリーと徹底比較する「MDラリー」。価格やアイテム・SKU数だけでなく、味も比較検証する。これをパートさんにも参加してもらって、自社の強みと弱みを全員参画で認識し、自信(これだったら勝てる)と対策(ここを強くすれば負けない)の両面に効果あったと聞く。これはYBさんのBe対策やCO団体の競合店対策に使われて有名になりました。

 店舗視察とかの勉強をする前に自分の先輩から「あそこの店はああだこうだ」と教えてもらうこともあるが、大抵はいいかげんな内容が多い。そこで、カッコだけで内容のない流通マンを一発で見破る方法をまずは伝授したい。

「横文字が多い人」
「暗記したデータを棒読みしているだけの人」

訳わからん専門用語や流通関係の書籍に出てくる難しい言葉や数字をやたら使う人は「ダメ」と思ってもらって良い。本当に現場に根ざして、たたき上げで這いあがって、且つ、確かな目と判断力を持つ人、さらに指導力のある人は「横文字・専門用語」を使わないものです。そのかわり、自分にしかわからない「見る目」を持っている。難は「見る目」をわかりやすく「見せる化」できないこと([E:coldsweats01])。
いずれにせよ、先輩から教えていただいたら、当初は感激してうなづきましょう。違うんじゃないかとか大学で習ったとか思っても、「初めて聞いた」ようにうなづきましょう。十に一つは経験則ながら良いことを言います。それを聞き出すためのうなづきです。何を言われても「ありがとうございます。勉強になりました」と心から言いましょう。相手は客でも先輩でも同じです。注意すべきは上司に対しての誉め言葉です。ヘタな誉め言葉は相手にとっては馬鹿にされたと受け取られかねません。お世辞が好きかどうかがわかるまで、誉め言葉は控えましょう。

余談ついでに、さらにおせっかいな話をすると、きちんと勉強したい人は、データは古くなっているがハートと考え方はこちらの本で学ぶのが良い。
ストア・コンパリゾン―店舗見学のコツ (チェーンストアエイジの実務原則・シリーズ)


すでに読みましたか?難しいでしょ? 渥美先生の本は勉強するためと言うよりは、他の業界人と話す時に「俺 読んだことない」とか「そんな言葉知らん」と言って恥をかかないように、何冊かは読んでおきましょう。
他にも偉人・異人・変人の本はありますが、昨今の流行に遅れないためには最低3冊の本は読んでおいてほしい。難しい経営の本ではありません。スーパーの基本について書かれた有名で読みやすい本です。
基本中の基本で、私も実際、読んでいる参考書ですが、教科書としてはそのうちの一冊しか評価しておりません。この3冊に紹介される内容で、ほぼ日本の食品スーパーマーケットを分類することができます。
ちなみに下記以外にも同著者の新刊が出ていますが、読んでません([E:coldsweats01])


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それでは実践編です。大変簡単です。

 「買物してください

ただし、店を訪問する度に買物していたら大変です。食彩賓館のように「趣味」と割り切ってしまえば良いのですが、そうそうお金は長続きしません。
そこで、紹介するのが「エアー買物」です。「エアーギター」とかの“エアー”。模擬買物ですね。
季節によってテーマを決めてエアー買物をします。
例えば、これからの行楽シーズンであれば「野外で焼肉」というテーマで買物します。
冬であれば「家族で鍋物」という感じで買物します。自分が所帯持ちならその家族構成で買物すれば良いが、初心者はほぼ独身と思うので「4人家族で子供2人」とか想定すれば良い。
ただし、条件があります。
1回あたりの買物金額の上限を設定します。家計消費支出データからその地域の嗜好を踏まえて金額を設定すれば良いのですが、面倒なので、全国平均の一ヶ月あたり7万円前後を想定します。月8回買物すると約8750円使えることになりますが、食費すべてをスーパーで使うわけにはいきません。コンビニでオヤツや飲料も購入するでしょうし、その他外食とかもしたい。ということで、1回に使える買物は大体5,000円前後ではないでしょうか。さらに、前述のメニューに使える金額は2,000円から3,000円でしょうか。
そういった金額を想定しながら自分でエアー買物してみましょう。
 
 最初は難しいので、以下の手順で準備をしてください。
1. 自宅に入ったチラシから地域で一番出店数の多いスーパーのものを1枚選択。(なければインターネットでチェック)
2. 大手のチラシは前年の週別(平日・週末)家計消費支出や同社のPOSデータ、あるいは他社を含めた地域のPOSデータに、今年の天候や消費の動向を加味し、さらにその商品を組み合わせた「テーマ」を決定するのが普通です。そのチラシを見て、メニューと購入品を決めてください。主なもので結構です。
3. 何を買うかを決めたらそれをメモしてください。店頭でメモるのは禁止ですが、メモを見るのはOKです。きちんと「買物メモ」と書いておきましょう。不振がられた時に効果あります([E:confident])
4. テーマ以外に、「これは」と思った商品もメモしておきましょう。自分が欲しいなと思った商品です。
 
 ~話の都合で、今日の買物テーマは季節はずれだが「すき焼き」とします

 まずは店の前で買物カゴと買物カートを選びます。どうでしょうか。取りやすい場所においてありますか? 。 スムーズにカートは押せますか?。買物カゴは綺麗ですか?。誰が触ったかわからない物に触れるのは抵抗ありませんでしたか?。自動ドアの反応はどうでしたか?今日、想定した買物品の価格が入口のところの掲示板でどれだけわかりましたか?
実際に買物するとそういったことに気付くようになります。
 
 店内に入ったら一番正面に何が並んでいますか? 昔は季節感のある果物が前面でしたが、昨今は野菜、特に安い商品を並べる傾向にあります。店によってはここに注力していることもありますが、大抵が思い込みだけの売場になっています。あなたの欲しいものがここに並んでいなければちょっとガッカリな店と判断しましょう。
ただし、本部が提案する売場に対して、その日の天候や気温の変化によって売る物を変えることができる店長や売場担当者もいます。そういったことは、中級者になってから勉強しましょう。

 ところで、あなたが買物しようと決めた品目はすぐに見つかりましたか?
その店の本日のテーマとして取り上げている品目がどこにあるか良くわからないのではアカンですね。テーマに沿って集合させて売場を作っていればナイスです。さらに関連品や特売品も組み合わせてあればベリ~グッド。

 さて、買物を続けましょう。
「すき焼」だったらメインは肉ですね。4人家族で何g必要ですか?。肉は牛ですか?。豚ですか?。それともミックスさせますか? 3,000円の食費で肉に使える金額はいくらですか?。
お父さんは「牛肉が良い」と言うでしょうね。子供達は「沢山食べたい」と言うでしょうね。
あっ 言い忘れましたが、あなたは主婦です([E:catface])。そう思って買物してください。
和牛と国産牛とオージービーフが並んでいます。和牛だけで揃えられますか? オージービーフで我慢してもらいますか? 肉に使い過ぎたら他の買物ができなくなりますね。
交雑牛を買って肉だけを皿に盛り、「どう。このサシ。和牛よ~」とか言って家庭内偽装をするのも手です([E:wink])。黒毛和牛の牛脂をサービスで提供してくれる店があったら、家庭内偽装をやってみましょう。大抵だませます。(店がやったら大問題ですが)
また、安い肉にして、タレだけは高級品にするのもアリです。結構ごまかせます。
ところで、和牛には黒毛和牛以外にも種類があるのを知っていますか?。和牛の中にも違いがあるのです。当然、黒毛和牛の中にも違いがあります。どこの産地ですか? どの程度のランクのものでしょうか。国産牛は交雑牛ですか? ホルスタインの廃牛ですか? オージービーフはショートグレインですか?。ミドルですか?。
そういったことがきちんと表示されているスーパーが良いというわけでもありません。かえって混乱します。

 選ぶの大変だったでしょう?。「選ぶこと」は買物の楽しみであり、苦痛でもあります。
「ここで買う肉は(味的に)大丈夫」というのは普段利用している生活者にしかわかりません。これは鮮魚も同じです。なので、見てわからないことは気にしないで買物しましょう。

 次に、肉以外の買物をしてみます。高い焼き豆腐を買いますか? それとも“激安”の木綿豆腐にしますか? 糸こんにゃくはどうしますか? 
余談ですが、糸こんにゃくのカットする長さにこだわってPB商品作りするスーパーがあることをご存知ですか?。 それは実際に使うだけではわかりません。比較しないとわからないのです。なので、そういったことは気にしないで予算に合わせて買物しましょう。

 そうやって買物すると最初のうちは結構、不便なことに気付きます。困らずに、サクサクと目的の買物ができるスーパーが自分にとって便利なスーパーになっていくのです。
いろいろな問題点を解決してくれるスーパーが「便利なスーパー」なのです。メニューのこと、料理の手間のこと、味付けのこと等々。
 
 気づいたことは、あなたが小売業なら自店の改善に活かせます。あなたが取引先ならその店の競合店の担当者にそれとなく伝えて点数稼ぎができるかもしれません。間違っても該当店舗の社長、経営幹部、バイヤーに告口したりしてはいけません。理由は述べませんが、心の広い人ばかりではないと思っておいた方が良い。

  自分で買物するとなると品質も価格も気になります。ただし、最初にやってはいけないこと、「単品での価格比較」です。オープンセールや安い物ばかりを買いまわるチェリーピッカーばかりだったら、一品単価にこだわっても良いですのですが、普段の買物では一ヶ所で購入する人がほとんどなので、買物金額全体で比較するのが正しい方法です。

 そうはいっても価格が気になる商品もあります。主力の野菜類。豆腐、麺類などの日配商品の一部。醤油、味噌、砂糖などの基礎食品。乾麺、子供が大量に飲む牛乳や飲料。さらにスナック菓子などのオヤツ。食パンもそうですね。人によってはビールや米なども入るかもしれません。そういった商品は価格をチェックしましょう。ただし、最初は無理に覚えなくても良いと思います。慣れてくれば自然に覚えられるようになります。

 大事なことは「自分で買物する」ということです。しかも条件を設定して買物するということです。週末は5,000円にして平日は2,000円にしても良いのです。テーマを持って買物すると絶対にそのスーパーの特長がわかってきます。当然、他のスーパーも同じテーマで「エアー買物」します。

 店舗間・企業間の違いがわかってきたでしょ?。

 最後に何か一品、本当に買物してレジに行きましょう。レジの人はあなたの目を見て出迎えてくれますか? 価格を声に出してバーコードスキャンしていますか? 価格をあなたに伝える時やお金の受渡しの時はきちんと笑顔で応対してくれますか? 見送りする時に下を向いていないですか? 箸とかの確認はきちんとしてくれましたか?
きちんとできていれば、最後にあなたも言いましょう。

 「ありがとう。また来るね」と。
レジの接客で一番大事なことは「(確認時に)客の顔付近を見ているか」です。最初からあれこれチェックしなくても良いのです。
 
 慣れてくるといろいろなことに気付きだします。この気付きは「客としての気付き」です。
ポケットに手を突っ込んで、売場の商品を眺めるだけでは絶対に客目線での気付きはできません。手当たり次第に経費で見本買いする社長さんにもわかりません。もし気付いたとしてもそれは「同業者としての気付き」です。ストアコンパリゾン(同業者としての気付き)との違いはここにあります。

自分のお金を使ったり、使うつもりで買物しないと本当のことには気付けません

 これが店舗訪問の基本です。

 例えば自分で食べるのならイチゴの品質が気になりませんか? 必ず、裏表を確認するでしょう。裏を確認する時にきちんと包装していないとイチゴがこぼれます。何回もしているうちに、この店はこういったチェックが必要な店かどうかがわかってきます。陳列商品の賞味期限もノーチェックで買物できる店かどうかもわかってきます。

 最初は簡単な買物で良いでしょう。さきほどの「メニュー想定」から始めて、次第に品目を増やします。果物を一品とか、つまみ用の刺身とか。きょうはハレの日だから豪華にとか。
時間帯も朝の開店の状況、昼のボリューム感と品揃え、夕方のピークタイムの売場と販売体制、夜の値引きと商品残量等々。
惣菜なんかは時間帯によって売場をガラっと替えている企業が多いですし、鮮魚は夕方の切り立て販売をしているところも多い。朝、一番で1日分を売場に出してしまう企業もあります。時間帯での確認も必要です。さらに曜日でも異なります。

 買物は楽しかったですか?。楽しくはなかったけど目的の買物が達成できれば、それはそれで良いのです。次は「楽しいかどうか」をテーマにして買物しましょう。
大事なことは「テーマを持って買物する」ことです。
 
 ストアコンパリゾンとかの教科書は「あるべき論」を語っています。全員ができるわけではありません。同業者間で比較するための調査方法を紹介しています。それで客の望んでいることがわかるとは思えません。
 
 答は買物客だけが知っています。

 忘れるところでした。買い物には家族にも付き合ってもらいましょう。ただし、母親や奥さんの意見は参考程度に。あくまでも気付くのはあなた自身です。その訓練をしているわけですから。
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食彩賓館の店舗運営についての記事
・2008/4/16ある社長さんとの会話・・5年前
・2008/6/2 この店に来る理由は何?
・2008/6/25巡礼とCRM,FSP 
・2008/6/26消費指数,食卓登場率,メニュー提案チラシ連動,集合
・2008/9/5   支援ストア作りには後工程優先組織を
・2008/10/30かんたん計数で夢をかなえる本250円弁当
・2009/7/30女性週刊誌の記事に協力
・2009/10/29女性セブンにブログ紹介記事掲載
・2009/11/2 M氏のセミナーに行く
西山和宏氏の「EDLPについて」の記事を読む
・2010/10/08長崎屋岸和田店で「鮮度宣言」と「コトPOP」
・2010/10/27 FSP・CRMで一世風靡「JAこま野」甲西店
・2010/11/02ベイシアスーパーセンター山梨店。経営幹部のこと
・2010/11/21お年寄りに優しい、安心できる店について
・2010/11/23サミット大森西店でチェーンストアと個店経営のコト
・2010/12/04来来亭竜王店(滋賀県)でスーパーの躾と志
・2010/12/21改装は何のために誰のために実施するのか
・2010/12/28売価のつけ方。商品の価値と店の価値
・2010/12/29サンデイ石橋店でディスウント推考
・2011/04/05スーパーマーケットの好嫌について考える
・2011/04/09スーパーマーケットの「店長」と流通業の労務管理
・2011/04/10閑話休題: 私の買物スタイル

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