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大正生まれの母の社会復帰。第六話。「93歳のリハビリと病院への宣言」

※この記事はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

★この記事の前に第一話~第五話があります

2017/04/05第一話「事故。緊急搬送。大腿骨頸部骨折」
2017/04/06第二話「93歳の決心」
2017/04/07第三話「93歳の手術」
2017/04/10第四話「術後せん妄」
2017/04/11第五話「せん妄から回復」
2017/04/12第六話「リハビリと病院への宣言」
2017/08/03第七話「リハビリの結果と退院」

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第六話。「93歳のリハビリと病院への宣言」

 翌週、病室を訪れた私は母の回復ぶりを目にします。すでにICUから自分の病室に戻っていました。室内には化け物も見知らぬ人もいないと言っていました。
カーテンが空いていて外の景色が見えます。「雲が少し出ているけど今日は天気がいいねぇ」と。
この間は同じ風景を「あんなところに海がある。魚の群れが泳いでいる」と言っていたのが嘘のように回復していました。
すっかり元通りになった母は先週、家人と娘が来てくれたことを嬉しそうに話してくれました。
そして、もう一つの「刺激」があったこと。
家人と娘が訪れた前の日に近所の方々が来てくれたそうです。母は見舞いに来てくれた人の名前を全員分、諳んじてくれました。

 リハビリの様子も楽しそうに他人のことも交えて話してくれます。
病室に入った時はベットで横になっていたのですが、床ずれなのか背中やお尻が痛いので椅子に座りたいと言い出しました。
どのように補助して良いのかわからないためナースステーションに椅子の移動補助希望について連絡をいれ、しばし待機。忙しいのか、なかなか来てくれません。10分ほど経過したでしょうか、もう一度連絡しようか迷っていたら車椅子を押して看護師さんが来てくれました。
母が「ナースコールを押してもなかなか来てくれない」とこぼしていたのはこういうことだったのかと一人納得。でも、忙しそうに看護活動をされている方々に文句は言えません。尚且つ、急を要しない依頼であることは伝えてあるし。
 看護師さんがベッドから車椅子に移す補助の仕方を教えてくれました。
「そうそう」「もっとこっち」「ここね」「いいよ」「ダメ」
母への指示は的確だが、心の中でつぶやく。
「お嬢さん。母は家族全員から尊敬されていて、母に向かってそんな口のきき方をする者は家族にはいないんだよ」
ぐっとガマンした。若いなりにこういった怪我の回復指導について彼女なりの経験則から出ている言葉だと理解しようとした。
もしかすると医療現場ではお年寄りに対する普通会話なのかもしれない。親しみを込めて話しかける、あるいは緊張感を解くための言い回しなのかもしれない。現にその看護師さんは敬語で私と会話しているし・・・。
母は看護師さんの指示にいちいち「ハイッ」ときちんと返事を返す。そして自分で車椅子に移動して見せた。補助は履物を履かせる時だけだった。

 この時、理解できた。母は車椅子に自分で移動できることを私に見せようとしたのだった。そしてどのように補助と看護をされているのかも。当然、母は何も不平や不満を漏らさない。

 その後、リハビリでは先生に支えられて自分で歩く練習もしているとかで、リハビリにも取り組んでいることを知り、一安心。

 いつものようにナースステーションへ寄って見舞いが終了したことを伝えた。
合わせてこう責任看護師さんに伝えました。
「我が家では家族全員が母を尊敬していて母の言うことはなんでも聞いているので、いろいろとワガママを言うかも知れませんが、よろしくお願いいたします。何か問題があれば私と弟から母に伝えますのでなんなりと私どもに申しつけください」
「先日、母の入浴のお世話をしていただいた実習生の方が大変、丁寧とかで母が喜んでおりました」
「リハビリは大変だけどリハビリの先生が優しいのでなんとか頑張っていると言っていました」
家族間で情報共有ができていることと丁寧な対応に感謝していることを伝えました。
さて、どのように受け止めてくれたでしょうか。
そして最後にこう伝えました。
「治療やリハビリ、そしてその後の社会復帰計画について、すべて母の意思に従って我々は意に添うようにバックアップする所存です。手段と方法については病院の方針に従います」と我が家から病院に決意を伝えました。

         (第七話に続く)

※この記事はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

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