【記事少し修正・追記しました】鈴木バイオリン(名古屋市)が1975年に恵那工場で製造したフォークギター(ウェスタン、トレッドノートタイプ)をハードオフで発掘し、手直しをして使えるようにした話。40年経過して乾いた合板ギターの音色に惚れる。

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鈴木バイオリン製造㈱の創業者である鈴木政吉氏は和製バイオリンのパイオニアです。最初のバイオリン工場は明治時代に名古屋で操業されました。
相対性理論のアインシュタイン博士はバイオリン演奏の趣味を持っていて、鈴木政吉氏の製造したバイオリンのファンでした。
鈴木政吉氏の子息で、教育者であり優秀なバイオリン演奏者だった鈴木鎮一氏のドイツ留学時に鎮一氏を通じて鈴木政吉氏の製造した「鈴木バイオリン」の製品を知ったのです。
アインシュタインは当時のドイツ製のバイオリンと比較して、鈴木バイオリンの製品を絶賛したという記録が残っています。

そのバイオリン製造で著名な鈴木バイオリンのギター製造開始は1914年で、大正時代からギター製作を手掛けています。戦中の一次的な戦闘機作りの影響も
あって、戦後のGHQからの財閥解体命令により分社化(木曽鈴木と名古屋鈴木に分割)の後は、本社を名古屋に戻し、岐阜県の恵那工場を系列工場として楽器
製造を再開しました。
その鈴木バイオリン(木曽鈴木とは違う「名古屋鈴木」)による戦後最初のギターが1946年に発売され、その後、エレキブーム時には電気ギターも1965年~1966年に製作されていたようです。
フォークギターが発売されたのは日本のフォーク(ソング)ブームに歩調を合わせるかのことく1968年でした。
そして鈴木バイオリンが手掛ける「スリーエスブランド」のギターはニューミュージックブームがピークを迎える1975年に発売開始されたのです。
(木曽鈴木と名古屋鈴木のギターで同名品番があるので注意が必要)
その後、同社のギターの製作は1987年を最後に終了しますが、昨今のいわゆるジャパンピンテージギターブームにより、国内産ギターが見直され、鈴木バイオリンが製作したギターもその鳴りの良さにより、マニア垂涎の逸品として発売時の価格よりも高額で取引されています。
[上記資料は鈴木バイオリン製造㈱の年表、その他関係資料より抜粋]
ただし、製造から40年経過しているため、部分的な破損や経年劣化などでリサイクルショップでは「ジャンク」として扱われることも多いのです。

食彩品館がこの鈴木バイオリンに興味を持ったのは新聞での鈴木バイオリンについての紹介記事なんですが、知人の所有する木曽鈴木のギターの存在やリサイクルショップで見かけた「nagoya suzuki」ブランドの存在について興味を持ったのがきっかけでした。
特に、当時の輸出専用品であった「nagoya suzuki」のブランド名がトップにデザインされたギターのトップ板の配色がすばらしく、ほれぼれしたのですが、ある理由で購入を見送りました。その理由は後述します。
Nagoya_suzuki_w120vs

木曽鈴木系のギターや名古屋鈴木系のnagoya suzuki、suzuki、threeS等々のギターブランドのことを調べた結果、いろいろなことが分かってきました。
それがこの記事の冒頭で紹介した内容です。

ここからが本題です。
「ジャンク」つまり、“故障品”として販売されている商品の中には、正常部分の部品取りなら可能だったり、修理してもさらなる価値の上積みが期待できなかったりといろいろな理由があります。
そして、通常はその“ジャンク扱い”理由がその商品のショーカードに記載されています。
ギターなどで良くある理由として「補整できない程度のネック反り」「ボデイやネックのヒビや折れ」「ペグの故障」等々です。
尚、あくまでも“ジャンク”なので、故障箇所表示以外にも問題がある場合があり、ほぼ購入者の自己責任において取引されるのが現状です。

岐阜県のハードオフ某店のジャンクコーナーに陳列されていた中古ギター。「ThreeS」のロゴマークが筆記体なのが目に止まりました。
20140531s_7_3

このギターを見かけた時は
「nagoya suzuki」ブランドの調査を終えていたのである程度、鈴木バイオリン製造のギターのことはわかっていたのです。
「ThreeS」のロゴマークが筆記体のギターはブランド発売当初の1975年~の初期の製造であることも知っていました。
20140531_5

普段、購入予定以外の商品を棚から外して「見せて欲しい」と依頼することは滅多にありません。ですが、当日は何としても確認したいことがあり、購入するかどうか決めていない時点での商品確認を希望したのです。(店頭には「気軽にお尋ねください」と表示してありますが、正直、見てからお断りするといのが苦手な
性分でして・・・)
外観のキズよりもまず先に確認したのがホールの中でした。「ThreeS」ブランドマークのラベルではなく、ホールの隅の使用部品木材に注目。
20140531s_7

↑スリーエスw-150の内部
バックの板とサイドの板をつなぐ部分の補強材である「ライニング」と呼ばれる木材は、スリットと呼ばれる縦の溝が掘られていて、ギターの形状に合わせてライニングを曲げやすく加工してあるのが普通。
鈴木バイオリン(名古屋鈴木の方)のギターの一部にはスリットのないライニングが使われています。これはバイオリンやチェロなどの弦楽器を製作する時の手法をそのままギター製作に応用したのではと推測しています。
フォークギターに使われているのは1975年~1976年くらいまでなので、スリーエスブランドの発売時期と合わせて、鈴木バイオリン(名古屋鈴木の方)で製造された1975年~1976年頃のギターであることがわかりました。
前述の「nagoya sizuki」ブランドのギターのライニングにはスリットが入っていて、製造年代が80年代ではないかと思ったのが購入しなかった理由です。中古販売価格も販売当時の価格(12,000円)の倍の値段がついていたのも購入しなかった理由。音は確認していません。
Nagoya_suzuki_w120vs_2

そしてもう一つ気になるのが製造ロットナンバー。「750310」なので、このギターはスリーエスプランドの中でも初期に作られたギターであることがほぼ確定しました。
Dsc01690

また、ホールの中のラベルから機種品番は「W-150」(当時価格1万5千円のエントリーモデル)であるこもわかりました。
20140531s_17

ちなみに、この「スリットのないライニング」は戦後分社化された「木曽鈴木」社のギターでは見られない技術ということです(同社のギターのホール内部を数本確認しただけなので確信はないのですが)。

棚に置いてあったジャンクギターの正体はほぼ判明したものの、専門家ではない食彩品館にはギターそのものの楽器としての機能の担保までは判断できません。尚且つギターのジャンク理由も不明です。
外観を触らせていただきながら、あれこれ推測したところ、いくつか不具合を発見しました。
まず、サイドボデイの上部に大きな凹みがあります。穴が開いているというほど深くはありません。
あと、トップ板の一部に少し気になるキズがあります。先の尖ったものにぶつけたようなキズです。これも内部まで到達しているようなキズではありません。
あとは大きな補修後やキズらしいキズもなく、演奏に問題があるとは思えません。もちろん、ギターの機能として問題があり、尚且つ修復不可(技術的あるいはコスト的な事情)であるからジャンクなんであって、時々みかける「ジャンクですが演奏には支障がありません(まったくの故障品ではないが外観や使い勝手に購入者の不満があるといけないので、あらかじめ防波堤的措置[ノークレーム・ノーリターン]の目的での“ジャンク表示”の意)」という表現には苦笑いしているのですが・・・。
そして、これがジャンク理由かなと思ったのが、経年によるネックの順反り。軽傷ですが、トラストロッドはホール内部から調整するタイプではなく、ヘッド側から調整するタイプなのでヘッド側のカバーを外さないとどの程度回りそうなのか(つまり反り具合を元に戻すことが可能なのかどうか)が不明です。
素人の演奏する楽器なので、この程度の反りは気にしないことにして([E:coldsweats01])、新たなる問題点の発見に移行。
部品として一番心配なペグも少し回したが、普通に回ります。ただし、ギターの弦が古いのであまり回すと弦が切れたりするとイヤなので少ししか回しませんでした。
音程をきちっと合わせて試奏するほどの価格でもないので、音程をしっかりと合わせないまま少し弦を振動させるたが、結構、鳴りそうな予感。

ここまで自分で確認してから、隣で無言のままずっと付き合ってくれていた店の方に質問しました。
「このギターのジャンクの理由って何ですかね」
店の方も専門ではないようで困っています。
あれこれ考えていても埒があかないので思い切って購入しました。
3,240円です。ジャンクギターとしては(私にとって)高い買物ですが、それよりも1975年製造のスリーエスギターに出会ったことの方が嬉しい。
(この後、スズキブランド時代の1970年~1974年製造品、1979年製造等のジャンクにも遭遇しましたが状態としては今回のW-150が一番マシ)

自宅に帰ってから、まずは古くなってサビた弦を外して、ギターを綺麗に磨き上げることから始めました。
この時、ジャンク理由が判明。ペグの一つが途中から空回りし出しました。
だったらショーカードに書いておけよというようなクレームは言いません。ジャンクですから([E:coldsweats01])。もしかすると買取検品時に店の人も気付いてなかったかも知れません。

なんとなく故障理由も判明したので安心して修理ができます。さっそく近所のギターショップに壊れたペグを持ち込んで新品のパーツを探してもらいました。運よく、似たパーツが在庫であったのでセットで購入。1,600円なのでペグとしては一番、低価格な部類です。
20140531s_7_2

ネジ跡を気にしながら着けていたら少しペグの配列が乱れてしまいました。これは気になるようだったら後日、修正するということで補修作業を終了。
(ネジを若干、ずらして付け替えると少しネジ穴が見えてしまった。ツマ楊枝で穴埋めして補修するほどでもないためそのまま放置)

そして、気になるトラストロッドの具合を確認。
20140628w150

素人調整で失敗するのもアレなのでそのまま蓋を閉めた[E:coldsweats01]。

リサイクルショップやギターショップのスリーエスW-150の中古実売価格は19,800円程度。今回は商品代と修理代を合わせても5,000円程度なのでまだまだ値段的に余裕があります([E:confident])。今しばらく、このまま弾いてみて気になるようだったら近所のギターショップでいろいろ調整してもらおうかと思っています。
それよりも、楽器としての機能はどうでしょうか。やや順反りの影響かハイフレットで弦高が徐々に高くなるため、少しハイコードが弾き辛い。
でも音が良く出るのです。特に中低が鳴動し、高音はピックの当て方によって微妙に共鳴が変化。
良いではありませんかっ。早速、お気に入りになりました。

後日、ギター仲間とスタジオ入りした時に同形状のマーチンD-28とD-18各数本と弾き比べしました。私以外、皆さん、国産ギターには興味がない人ばかり。

★結論
高いギター(マーチンD-28、D-18)はさすが高いだけある。すべての弦が同じレベルで音が出てくる。しかも、音が高度に共鳴されて鳴るだけでなく上品で繊細だ。尚且つ弾きやすい。楽器としての機能のレベルが高度であることが素人の私でも理解できます。
ついでといってはナンですが、今回の弾き比べの付帯効果としてマーチンD-18とD-28の違いや個体の差異についても少し気付きました。“わかる”ではなく“気付く”のレベルですが。

対して、私のスリーエスギター。特徴として音がでかい[E:wink]。歌の邪魔になるくらい響く。特に中低音が良い。
でも音全体のまとまりというかバランスが悪いのです。一音一音の音がバランス良く出てくるマーチンに比べるとはるかに劣る。
日々弾いていると、気の所為かどうか、高音の鳴り具合に差異を感じることがある。天候なのか湿度なのか気温の影響なのかは不明。

楽器としての価値ははるかに劣るかも知れないが、今回、いろいろなことが分かったので自分自身の満足感としては相当、ハイレベルだ。
楽器の機能としても音がでかいのが良い[E:confident]。国産オールドギターの長所を体感できる。

各項目の満足度を点数化して集計すると圧倒的にマーチンが当たり前に優勢。でも、その満足度の総合点数を購入金額で割ると逆にスリーエスに部がある。
そりゃそうだ。かたや新品価格で40万円~30万円近く、中古価格でも17万円~20万円するマーチンD-28に対して、今回のスリーエスギターは修理部品込みで5
千円弱。比較するのが申し訳ないくらい。
楽器の価値判断をコストパフォーマンスで判断するのは良くないと思っています。

ということで、今回の1975年製スリーエスギターW-150の価値はプライスレスであることがわかりました。
満足です。大事にしたいと思います。
でも、心配事があります。これに味をしめて、あちこちで古いギターを買い漁るという、食彩品館の新たな趣味になってしまわないか。大変心配です。
(つい先日も1979年製造ながらライニングスリット無しのW-200を発見してしまって心が動いたのです[E:coldsweats01]。未購入ですが)

余談ながら、こういった、発売当時は合板で造ったエントリーモデルながら、経年経過して木材も乾燥して音が熟成されてきているギターを“ヴィンテージ”とするから話がややこしくなる。ヴィンテージではなく単に“ジャパニーズオールドギター”で良いと思う。“ヴィンテージ”は
“ヴィンテージ”とすると購入側に優良誤認をさせてしまうおそれアリとするのが食彩品館の意見です。

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