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教育・指導・指示命令のつもりが“パワハラ”になってしまう危険性を排除しましょう。役職は「身分」ではなく「役割」だと自らを自制することが大事。

自分の周りでそのようなことがないのだろうか。
そろそろ学校のいじめ問題同様に「見て見ぬふり」「他人事」「黙認」は共同正犯に連座する可能性があるように思えてならない今日この頃です。
そこで、今一度、自分なりに昨今の事例から職場のパワハラ問題を調べなおしました。

まずは定義の確認。

「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」
(厚生労働省パワーハラスメントの定義。2012年1月30日)

ということで、まずは優位性について。
パワハラは普通、上司から部下というパターンが多いのですが、逆もあるということを理解しておく必要があります。例えば職場の古株の部下で専門知識を持っているものが未熟な上司をバカにしたりするケース。これは同僚同士にもあてはまります。
そして注意点として、「顧客や取引先から、取引上の力関係などを背景に、従業員の人格・尊厳を侵害する行為がなされる場合」も付け加えられています。
そうなると、バイヤーが取引先のセールスに対して罵詈雑言を浴びせたりするのも対象になるのかなあ。「使えない会社だなあ。もう取引やめちゃうよ~ん」とか。
いずれにせよ、「業務の適正な範囲」の認識がお互いに異なることが問題を複雑にしています。

以下、「業務の適正な範囲」ではないことが6つの類型としてあげられています。

1. 暴行・傷害(身体的な攻撃)
2. 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
3. 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
4. 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
5. 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
6. 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

日常茶飯事? と思うような内容もありますね。
1.の暴行・傷害は問題外として、2の脅迫その他や3の無視などについても業務の適正な範囲ではないことがわかりますが、4から6については職場内の相互理解というか認識の共有が難しいと思います。
例えば、厚生労働省のホームページで以下の発言が安全配慮義務違法判例として紹介されています。

・「お前は“○○(役職・資格・階級)”だろ。“○○(役職・資格・階級)”らしい仕事をしろよ。」「お前は覚えが悪いな。」「バカかお前は。“○○(役職・資格・階級)”失格だ。」

指導目的であっても相当性を著しく欠くと判断された事例ですが、似たような発言は気性の荒い上司にあたるとしょっちゅうあるような気がします。
私も「おまえは□□(同僚で同役の氏名)以下だ」と上司から直接、言われたことがあります。しかも冷静沈着な声で(笑)。
同省のホームページでは次のような判示が紹介されています。
~ (上司には)その所属の従業員を指導し監督する権限があるのであるから、その指導監督のため、必要に応じて従業員を叱責したりすること・・それ自体は違法 性を有するものではない。しかしながら、(上司の)行為が権限の範囲を逸脱したり合理性がないなど、裁量権の濫用にわたる場合は、そのような行為が違法性 を有するものと解すべき~

それではどのような発言や行為が違法と判断されたのでしょうか。
厚生労働省で紹介されている事例を含めて、いろいろと調べてみると次のような発言や行為が違反事例として紹介されていました。

・「存在が目障りだ。いるだけでみんなが迷惑している」
・「お前のカミさんの気がしれん。お願いだから消えてくれ」
・「車のガソリンがもったいない」
・「どこへ飛ばされようと、オレはお前が仕事をしないヤツだと言いふらしたる」
・「お前は会社を食い物にしている。給料泥棒!」
・「お前は対人恐怖症やろ」
・「客先の回り方が分からないのか。勘弁してよ。そんなことまで言わなきゃいけないの」
・「肩にフケがベターと付いている。お前、病気と違うか」
・「お前なんかいてもいなくても同じだな」
・「主任失格」
・「目ざわりだから、そんなちゃらちゃらした物は着けるな。結婚指輪は外せ」
・「できが悪い」
・「何をやらしてもアカン」
・「お前みたいなヤツは次の異動で降格させてやる」
・「休みでも会社出てきて仕事するくらいの根性見せてみろ」
・「有給とったら考課を下げることになる」
・「もうお前に与える仕事はない」
・「お前のおかげでオレまで評価が下げられる」

なんとなく、普段、似たようなことを言ったり、言われているような気がしませんか?

部下があまりにもふがいなく、部署の成績や自分の評価だけでなく、このままでは本人の将来にとっても良くないと思ってアレコレ自称“教育指導・訓練”を課すのだけど、知らないうちに犯罪行為者になってしまう危険があります。
最 近では部下から「それってパワハラじゃないですか?」と逆ギレされてしまうこともあると聞いています。でも、部下側も上司が正当な指導監督行為をしている ことに対して「パワハラ」呼ばわりすることは、逆に上司から「部下によるパワハラ行為」と指摘されてしまうことになりかねません。

上司 から部下への行為の他にも、上司は普段から沈着冷静できちんとした態度で正当な方法と手段で叱責しているにもかかわらず、あまりにも部下の横柄な態度に興 奮してついつい言ってしまったという事例も紹介されています。違法性はあると認められたが、部下の態度にも問題があるとされ、請求額が相殺されたというこ とです。

以上のことを調べていて思ったのですが、要は「オレは上司だ。文句を言わず言うことを聞け」「オマエの所為でオレの評価まで下 がる」「会社のために全精力を使え」という感情を抑えることができないタイプで、仕事の能力はともかく、人格的に劣っている人が、過去の成功事例や実体験 (オレは我慢して人一倍努力してここまで来たんだという自負)を基にして管理監督行為という名のパワハラ行為をしているような気がします。

パワハラ防止はそういった人格劣悪者の行為規制だけでなく、部下への教育も大事です。
パワハラの講習会は上司側だけに受講させるのではなく、部下も一緒に聞いてもらい、事例を沢山紹介して、「これはセーフ」「これはアウト」を労使間で明確にしておくことが肝要かと。
そうすれば、当事者間の感情の行き違いを周囲の人々が聞いて判断し、第三者が互いを諌めることもできます。

いずれにせよ、上司と部下の関係は仕事上のかかわりであって、人格・性格・私事まで関わってはいけないということです。一社会人同士、尊重し合えばこういった問題もなくなるように思われます。

上司の立場としては役職は「身分」ではなく「役割」だと自らを自制することが大事。
部下の立場としては上司に沈着冷静に管理監督してもらえるように、普段から報告・連絡・相談を頻繁にしておくことも肝要。
要は互いに誤解されないような配慮が大切です。
コミュニケーション活動は対策方法の一つですが、飲み会やカラオケ、その他自分の趣味に誘うのもパワハラになることもあるしなあ。難しい問題です。

仕事の成功者は自分の成功体験が一番で、それ以外の手段を認めない傾向にあります。人格者でなくとも、上司になったら人格者のふりをすることを自分に課し、退職時には立派な人格者だったと部下から心底言われるようになりたいと思いませんか?
私は無理だけど(笑)